大阪大学IBグラント 大型産学共創コンソーシアム組成支援プログラム 「過硝酸溶液を用いた安全・確実な世界初の殺菌手法の実現」

2018.04.05(木)

お知らせ

採択者インタビュー:大阪大学大学院工学研究科 アトミックデザイン研究センター 准教授 北野 勝久

技術移転の促進剤としてIBグラントを活用し、
過硝酸殺菌研究コンソーシアム全体の強化を図る

大阪大学共創機構産学共創本部が提供する「大阪大学IB(Innovation Bridge)グラント 大型産学共創コンソーシアム組成支援プログラム」とは、近未来の社会課題の解決や経済的インパクトが期待できる、阪大発の技術移転(共創イノベーション)を支援する制度です。具体的には、領域の異なる複数研究者と企業などによる大型研究プロジェクトの組成や大型公的資金事業への採択のための「大型産学共創コンソーシアムの組成」を対象としています。

目次

★研究テーマは劇薬並みの殺菌力がパッと消える過硝酸
★産学共創本部とのお付き合いは、マッチングイベントでの手厚い支援がきっかけ
★技術移転の促進剤としてIBグラントに応募した目的は、複数連携先との共通課題解決によるコンソーシアム全体の強化
★産学共創本部には、今後も知財管理やユーザーとの連携に対する支援を期待!

 

研究テーマは劇薬並みの殺菌力がパッと消える過硝酸

これまで研究してきたプラズマとは、固体・気体・液体のようなひとつの「状態」のことで、さまざまな用途が考えられます。私は工学部の研究者ですので、自分の技術を世の中に出したいという思いはずっと持っており、10年くらい前から企業との共同研究でガスクロマトグラフシステムのプラズマ検出器を開発してきました。売れ行き好調と聞いていますが、これが私の産学連携での最初の成功事例です。

一方、今回の過硝酸溶液による殺菌の研究を始めたきっかけは、プラズマを照射した水の殺菌活性の原因を調べていくうちに、過硝酸による殺菌であることを特定できたことです。産業応用されているか調べてみると、過硝酸は殺菌には全く使われていないことがわかり、思いがけなく幸運に巡りあえた感じでした。劇薬並みの殺菌力を有するにもかかわらず、条件によっては秒単位で消えてしまう過硝酸溶液には多くの応用分野があると確信して特許を申請すると、誰も手をつけていない技術だったので一発で通りました。

その後、多様な分野の方と意見交換し、技術移転への道を探り始め、「安価に濃い過硝酸溶液を大量に製造できる」化学合成に舵を切りました。そういう事情で、イノベーション・ジャパン2017以降のプレゼン資料からは「プラズマ」の文字を完全になくして、「過硝酸溶液による殺菌技術」を完全に独立させたのです。自分の技術を社会で使ってもらえるのであれば、プラズマか化学合成かは関係ありませんから。

ちなみ化学合成では、一般的な消毒薬であるオキシドール(3%過酸化水素溶液)の100分の1の製造コストで、殺菌活性が100倍の過硝酸溶液をつくることができ、製造費用あたりの殺菌活性はなんと1万倍です!

 

産学共創本部とのお付き合いは、マッチングイベントでの手厚い支援がきっかけ

私と産学共創本部とのお付き合いは、産学マッチングイベント「イノベーション・ジャパン2017」の応募支援をしていたただいたことが始まりでした。

応募段階からのコーディネーターによる先手先手の支援のおかげで、全国からの応募400件の中からトップシーズ12件に選定され、素晴らしい舞台でプレゼンすることができました。そのときの資料配布は300セット以上、名刺交換は100人以上、喉がかれるほど企業の方と話し込み、大きな手応えを感じた記憶があります。

その後の企業対応でも、忙しい私を粘り強く支援していただいたコーディネーターや産学共創本部の本気の姿勢に対し、私の中で大きな信頼感が生まれました。

<「イノベーション・ジャパン2017」前後の主な支援内容>
【プレアワード】主催者向けの応募資料ブラッシュアップ、知財に関する後方支援、発表資料・ポスター・配布資料のブラッシュアップ
【当日】出張旅費支給、来場者対応(技術内容PR、名刺管理、写真撮影)
【ポストアワード】来場者リスト作成、大学訪問希望企業との事前調整、企業面談への同席(技術内容紹介支援、産学契約紹介)

 

技術移転の促進剤としてIBグラントに応募した目的は、複数連携先との共通課題解決によるコンソーシアム全体の強化

これまで多くの企業や研究者が過硝酸殺菌に興味を示していただき、多くの方と連携してきましたが、殆どの方から「安全性・素材適合性は大丈夫?」との質問を受けてきました。これに対して、安全性や素材適合性のデータを揃えて実用化への壁をなんとかクリアしたかったのですが、個別テーマの研究費で過硝酸殺菌全体の共通課題を解決することは無理なので、困ってしまいました。その状況を知ったコーディネーターから、IBグラントを踏み台にして、共通課題を解決すればいい!」という言葉をいただき、応募に向けて一気に心が動きました。

私のように、数多くの連携先との共通課題に悩む者には、願ってもない制度だと思いました。

実際に採択されてからは、IBグラントが技術移転の強烈な促進剤になってくれていると改めて実感しました。大阪大学からの支援で「安全性・素材適合性検査」に挑む状況がつくれたことで、連携先の企業や研究者にも勢いが出てきています。今後、安全性や素材適合性に関するデータが揃ってくれば、技術に厚みが出てコンソーシアム全体を強化できるはずです。

 

産学共創本部には、今後も知財管理やユーザーとの連携に対する支援を期待!

IBグラント採択後も、コンソーシアム全体のマネジメントについて一緒に考えていただいたり、大学に新しい企業が来られるときに同席してくださったり、産学共創本部のコーディネーターには、本当に感謝しています。

私が大変忙しいこともあり、企業との連絡・面談・折衝でのフォローが一番助かっています。

今後、過硝酸殺菌に関する大型コンソーシアムで多様な応用分野ごとの個別テーマに取り組み、技術移転を進めるには、産学共創本部には知財関係でのサポートも強化していただけると助かります。私の場合、特許は基礎出願だけで20件以上あるのですが、この管理が大変なのです。

5、6年前に、JSTに特許関係をトータルに支援していただく機会がありました。許担当者がついてくれて、「この新しい出願はこうした方がいい」など、疑問点全てを調べてチェックしてくれて大いに助かりました。基本的に知財は、弁理士と発明者で対応しないと難しいとは思いますが、トータルに知財管理をサポートしてくれる制度を大学に設けていただけたら、本当に嬉しいですね。

私は今後もプラズマのスピンアウト技術の実用化を目指しており、そのためにはユーザーの方と共に研究を進めてニーズを掴むことが大事だと考えています。産学共創本部には、ユーザー企業と繋がるためのさまざまな支援も期待しています

 

<北野勝久 Profile>

2001年大阪大学工学研究科博士過程修了、同科助手・助教勤務を経て、2008年同科准教授就任。

<インタビュアーの眼>

身振り手振りで語りかけ、豪快に笑う北野先生を見ていると、「人に話す熱意」がある研究者こそが技術移転を実現していくような気がしました。「劇薬並みの殺菌力がパッと消える!」北野先生の元気な声が耳から離れません。

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