防災コミュニケーション未来共創思考サロン『フォワイエ阪大』交流セミナー 防災・減災コミュニケーションにおけるフューチャー・デザインの可能性
2019.03.26(火)
近い将来、南海トラフ地震と連動した大規模災害の発生が懸念されるなか、昨年6月の大阪北部地震や台風等による豪雨災害をはじめ、続発する自然災害に対して防災や減災の意識が高まりつつあります。前者においては、安否確認や休講などの連絡、情報共有・発信が不十分であったため、とくに留学生が不安を覚えて阪大近隣の避難所に大挙して駆け込む事案が発生するなど、災害情報弱者である留学生への対応・コミュニケーションの課題が浮き彫りとなりました。
【サロン活動の目的】
この状況に対峙するため、異分野ゆえ交流機会の少なかった阪大内外に点在する研究シーズを「防災・減災・コミュニケーション」の共通テーマの下に有機的に繋げることで、社会ニーズに応える産・官・学・市民による共創イノベーションの創出を図ります。本学が医学部と附属病院、外国語学部を併せ持つという国立大学唯一の特長を活かして、安心安全な地域社会づくりに貢献します。異分野融合、異業種連携といった上記関連分野の専門的な知見や視座を通して議論を深め、課題解決への効率的な手法や道筋を探る一方、留学生へのAED講習会や避難訓練、防災ワークショップの開催などを通じて、国際的な視野を持ちつつ地域でも活動する「グローカル人材」の育成を行いながら本格的な共同研究や産学共創プロジェクトの組成を通じた社会課題の解決を目指します。
ウェブサイト(https://handai-bousai.com/)
【サロン交流セミナー】
災害発生時に外国人市民や留学生ら災害情報弱者に、何をどう伝えるか災害時コミュニケーションの在り方をフューチャー・デザインによって導き出す本セミナーは、多文化共生社会での減災・防災を考えるうえで重要な場・機会になると思います。専門家による3講演に加え、交流セッションでは異分野・異業種による多様な知見や視座を通して議論を深め、課題解決への効率的な手法や道筋を探る予定です。皆さまが日頃より抱えていらっしゃる研究課題や社会問題、大学と地域との社学連携、産業界との産学連携などの認識を共有するためにも是非、協働いただけますと幸いです。
今回のセミナーは、平成30年度の未来共創思考サロン活動支援プログラム※に採択された、『フォワイエ大阪』」を主宰する後藤厳寛特任准教授をファシリテーターとして、フューチャー・デザインによって災害時コミュニケーションの在り方を導き出す取組みです。限られた時間の中でしたが、専門家による3講演に加え、交流セッションでは異分野・異業種による多様な知見や視座を通して議論を深め、課題解決への効率的な手法や道筋を探りました。
※大阪大学共創機構産学共創本部は、未来共創思考サロン活動支援プログラムという制度で、新たな社会ニーズ・社会課題の発見やその解決に向けての、大阪大学の研究者を中心とした産官学民による会議・ワークショップ・サロン等の活動を支援しています。
永井健治副理事(共創機構担当 )からの開会挨拶に続き、後藤厳寛特任准教授から本セミナーの趣旨説明が行われました。
■趣旨説明
災害に遭って初めて知る、コミュニケーションの重要性
(以下、趣旨説明より抜粋)
平成30年6月18日に発生した大阪北部地震。大阪大学の多くの外国人留学生たちが、災害情報弱者(=対処法がわからない、正確な情報が入手できない)として、避難所などで不安な夜を過ごしました。日・英・中・韓という主要4言語でしか防災情報が発信されなかったため、それ以外の言語が母国語の方にとって、なかなか詳しい情報に到達できなかったそうです。避難所の運営を通じて留学生などの防災意識の低さを体感された地域の皆さん、そしてその事態の深刻さを知ることとなった大阪大学、両者ともに発災時に外国人市民や留学生ら災害情報弱者に何をどう伝えるべきか、災害時コミュニケーションを検討する必要性に気付かされました。
これまでも、大学に対して多言語防災コミュニケーションへの取組みの必要性を訴えてきましたが、なかなか聞き入れられませんでした。しかし、実際に災害を経験して留学生たちの災害情報弱者としての姿が明らかになったこともあり、2018年の4月に未来共創思考サロン活動支援プログラムに応募していた、「防災・減災・発災時コミュニケーション共創サロン『フォワイエ大阪』」を採択していただくことができました。私達は多言語防災コミュニケーションを通じて、避難者や災害情報弱者の安心感を醸成していくために、地域の産官学民が一緒になって、今回のようなサロンを通じて協働していきたいと考えています。
続いて、3名の専門家からの講演が行われました。
<第一部>
■特別講演
フューチャー・デザイン
まずは原准教授から、今回のセミナーの大きなテーマである「フューチャー・デザイン」についての解説がありました。
なぜ人は持続可能性に関する長期的課題に対応できないのか?仮想将来世代とは?新しい学術分野の話に、参加者は興味津々の様子でした。
(以下、講演内容より抜粋)
【ヒトは、長期的課題に対応できない】
人には、「近視性」と「楽観性(嫌なことを忘れて、今の快楽を求め、将来を楽観的に考えるように進化した可能性)」という特性があり、そのおかげで今日まで存続してこられたと考えられます。また人間が構築した重要な社会システムでもあるマーケット(市場)と民主制はいずれも、短期的欲望を実現し、将来世代ではなく現世代の利益を実現する仕組みであり、将来世代の資源を惜しみなく奪ってしまうという見方ができます。以上を考えると、今の社会システムの下では、気候変動、生物多様性、国家債務といった、解決に数十年以上かかる長期的課題には、うまく対応できない可能性があります。すなわち「将来失敗」が起きてしまうのです。
【仮想将来世代グループの参画】
ではどうすればいいのか?
新しい社会システムを考えていかないと、短期的な最適化(課題解決)はできても長期的な課題に対応できません。そんな課題に対して出てきたのが「フューチャー・デザイン」という考え方です。2012年頃、当時阪大の社会経済研究所におられた西條教授や、本発表者の原准教授らの研究者が構想し、2015年からはいろいろな研究や実践が始りました。フューチャー・デザインとは、「将来可能性」(現在の利得が減るとしても、これが将来世代を豊かにするのなら、この意思決定・行動、さらにはそのように考えることそのものがヒトをより幸福にするという性質)を生むような社会の仕組みのデザインとその実践のことを言います。たとえば、そのような仕組みの一つが「仮想将来世代」です。将来世代を仮想的に生み出し、将来から今の課題を考えることで将来可能性がアクティベイトできることが分かってきました。将来から今の課題を考えるという新しいサイエンスをつくるための議論が進んでおり、その実践の動きは自治体にも広がっています。
例えば、岩手県矢巾町で住民の方の参加を得て2015年度に進められた実践では、住民が仮想将来世代グループと現世代グループに分かれ、6カ月にわたって2060年に向けた地方創生プランを別箇にそれぞれのグループで考えました。そして最後に、両グループが世代間合意形成を行いました。現世代からは今の問題に対し即効性がありそうな「子供の医療費無償化」などが案として出てきました。一方、仮想将来世代グループは「子供の医療費無料化」については、今現在はいいかもしれないが、将来世代にとって財政的負担になる可能性がある、という理由から反対しました。また、現世代が今見えている課題を中心に議論を展開するのに対し、仮想将来世代グループからは地域の資源やメリットに着目した独創的な発想や提案が多く出ました。例えば、宮沢賢治が銀河鉄道を構想した南昌山を活用したループ型モノレールの提案などが出てきました。そして、コンパクトシティという地域の物理的特徴を考えるとこれらは非常に理にかなった提案でした。このように、仮想将来世代からは現世代とは大きく質が異なるアイデアが出てくることがわかってきました。
【フューチャー・デザイン×防災】
今やフューチャー・デザインはただの実践にとどまらず、行政計画に応用されようとしています。岩手県矢巾町ではこれから第7次後期総合計画に、吹田市は第3次環境基本計画のプランニングにフューチャー・デザインを組み込みつつあります。行政の職員、住民、議員などの協働を通じて、将来から今の課題を考えるという枠組み、すなわちフューチャー・デザインによって行政計画をつくる、非常に新しい取組みです。
フューチャー・デザインはさまざまな課題や領域に対して応用が可能です。「公共政策」「医療」「産業技術イノベーション・研究開発戦略」そして本日のテーマである「防災」。ヒトの将来可能性を生むような、仮想将来世代などの手法を導入し、将来から今を眺めることによって、本質的な課題が抽出され、中長期的に真に必要となる防災案が発案されるとともに、持続可能な未来が見えてくるのではないでしょうか。
■基調講演
フューチャー・デザインとリスク・コミュニケーション
倉敷教授からは、フューチャー・デザインの経験が、防災に対する視点や行動にどのような影響を与えたかという興味深い紹介がありました。そして講演の最後には、大阪大学共創機構産学共創本部の加藤先生の発想をもとにした、大変ユニークな防災・減災イベントの提案も飛び出しました。
(以下、講演内容より抜粋)
【リスク・コミュニケーションの障害をフューチャー・デザインで取り除く】
我々の研究室では、大型タンク火災、有害ガスの拡散、津波火災、漏洩油が津波により市街地に及ぼす影響などのシミュレーションや評価を研究しています。地震や津波などの自然災害に起因する産業事故はNatechと呼ばれ、これに対する研究も昨今注目を浴びています。社会や住民を守るためには何が必要で、それを短期的長期的にどう対応していくのか問われています。阪大では大阪ベイエリアNatech防災研究イニシアティブを立ち上げ、ハード・ソフト両面から防災や減災を研究しています。
シミュレーションや評価に加えて、リスク・コミュニケーションについての研究も進めています。リスク・コミュニケーションでは、それぞれのステークホルダーがお互いの立場を理解し合ったうえで、それぞれの行動展開につながるように結びつく必要があるのですが、実際はそうはならない。例えば、市民、行政、企業それぞれに立場が異なりますから、なかなか円滑に進みません。これに対し、ステークホルダー全ての目線を将来に向けることで視点変化や行動変容を促進でき、ステークホルダー間の壁を取り除けるのではないかと考え、フューチャー・デザインを取り入れることにしました。
【フューチャー・デザインの経験が、共助意識の向上に】
市の2/5が工場地帯である大阪府高石市で、現代と仮想将来の2世代、想定外と想定内の2つのシナリオで2060年の防災ビジョンを考えるワークショップを実施しました。仮想将来世代からは「忍耐力」「税収増加」などといった将来世代のための言葉が聞かれ、仮想将来世代の導入に対して殆どの方が「役に立った」と回答されました。特に、若い世代に対するフューチャー・デザインの親和性の高さを示すデータは、非常に興味深いものでした。
徳島県阿南市の高校生・高専生を対象にしたワークショップでは、実施の前後で公助・共助・自助に対する関心をアンケートで訊ねたところ、いずれに対する関心も軒並み大きな伸び率を示しており、仮想将来世代として考えた経験により防災への関心が高まる可能性が示されました。
リスク・コミュニケーションは持続することが重要ですから、ワークショップの成果をまとめて、次のワークショップに活用していくためのツールづくりも手がけています。最終的には自治体との連携、高大連携、企業との事業戦略といったところも手がけて行く予定です。
【「ドキッ!」体験、サプライズ避難訓練の提案】
産学共創本部の加藤先生から教えていただいたのですが、東京都府中市では「避難訓練コンサート」という防災への取組みが行われているそうです。コンサートの演奏中に突然避難訓練が始まり、また戻ってきて、そのままコンサートを楽しむというものです。これはなかなか面白い取組みだと思いました。工学部ではプレミアムフライデーという取組みが行われています。その最中にサプライズな防災/減災の取組みが始まるようなイベントを実施されてはいかがでしょうか?普通の避難訓練はそのうち忘れてしまいますが、ドキッとする瞬間があると記憶に残るはずです。
■基調講演
箕面新キャンパス構想とコミュニティの防災連携
2021年に阪大の箕面キャンパスが北大阪急行線「箕面船場阪大前駅」(新駅)に移転してきます。新キャンパスには学生寮も建設されるため、多くの留学生たちがこの地域で暮らすことになります。新キャパスの構想はどのようなものなのか、そして箕面船場地域への影響や防災への取組みはどうすべきか、吉岡聡司准教授が幅広い視点から紹介しました。
(以下、講演内容より抜粋)
【リビングラボとして、もっとPRを!!】
阪大箕面キャパスは北大阪急行線の新駅「箕面船場阪大前」の再開発街区(約4.8ha)に移転してきます。再開発街区には大阪大学の新キャンパス(約8,000㎡)の他に、箕面市の文化施設(ホール、図書館、生涯学習施設など)、その向かいに、民間地権者の商業施設やマンションが建つ予定です。阪大キャンパスには、外国語学部と日本語日本文化教育センターに加えて学生寮も入りますので、世界からやって来る留学生と世界に出ていく市民・企業の交流が生じる可能性が高い。新キャンパスそのもの、もしくはその周辺空間も含めてリビングラボとみなせば、さまざまな社会実験も可能です。このように新キャンパス周辺は国際的なマーケティングやイノベーションに直結する、ポテンシャルの高い地域になると期待しています。そのためには積極的なアピールが必要ですが、現実にはそのポテンシャルを社会に充分アピールできているわけではありません。オープンまであと2年、周辺の方々との連携をしっかり進めて、リビングラボとしてのポテンシャルを広くPRしていきたいと考えています。
【地域の皆さまとの対話を継続していく】
箕面船場地域は、昭和40年代に多くの方が移転されてきたので、時代ごとにコミュニティが分断されています。そんな中、箕面船場まちづくり協議会さんの小林代表理事は、もともと一番大きい連合自治会の会長でいらっしゃったので、あちこちを繋いでいかれて、5,500世帯、12,000人をまとめられました。協議会さんをはじめとする地域の方が持たれている問題意識は、子育てや、環境、防災、交通など多岐にわたります。ただし、他の地域同様、箕面船場地域でもコミュニティが衰退してきているので、従来通りのボランティア頼りでは駄目だと思っておられる。事業化による新しいコミュニティ創りといった、自律的なことも考えられています。
我々は大学が新キャンパスに引っ越せたらそれで成功、それでいいとは全く思っていなくて、周辺エリアに大学の移転効果がプラスに働かない限り、移転が成功とは言えません。阪大としても、協議会さんとはこの2年で接点を増やし、一緒に地域のことを話し合ってきました。
例えば防災の話にしても、もともと箕面船場地域の方々は、発災時には土砂災害の可能性が高い171号線より北側に避難しなければならなかった。こんなことも、阪大の新キャンパスが来ることで状況が変わると思います。ですので、箕面船場まちづくり協議会をはじめとする地域の皆さまとは、これからも対話を継続していきたいと考えています。
【防災は「日常の活動」への落とし込みが重要】
大阪北部地震ではものすごい数の避難所ができて、ものすごい数の避難者が発生しました。これを再開発地域で考えたら、公式な防災協定の有無に関係なく、多くの人達が市の文化施設や大学の講義室に避難しようとするはずです。これは避けられない。実際、東北の震災時にはいくつもの大学が独自の判断で帰宅困難者を受け入れて、避難者が非常に助かったという事例がみられました。
安全工学の一般論から言うと、避難経路は日常の動線に沿って配置すべきです。これはものすごく大事なこと。知らないところへ逃げ込むのは心理的抵抗があり、知らない人がいるところへ逃げようとは思いません。
つまり、避難を「日常の活動」へつなげることが必要で、大学の前庭や共用空間が普段から地域との共創空間として使われていることが重要です。新キャンパスで面白いイベントを継続実施するような、「日常の活動」が大切であり、それがいざというときの防災・減災にもつながるはずです。
第二部
白熱!! 交流セッション
【発災現場のリーダー人材育成が急務】
箕面市豊川南小学校地区
防災委員会 外国人市民支援班
班長 小原 不二夫
大阪北部地震の際、箕面市豊川南小学校の避難所の開設・運営に携わりました。当時、避難所にいらっしゃった百数十名は全員が外国人。多くの方が地震に対し無防備なことに驚きつつも、地震の経験がない方に言葉や生活習慣の壁を越えて安心感を与えようと努めました。今回の経験を通じて痛感したことは、発災現場におけるリーダー人材の育成の必要性。どのような人材を、何人育てるか、という視点はこれまでありませんでした。これから検討を進めてまいります。
【発災時に即断できなかった失敗体験】
吹田市国際交流協会
事務局長 夛田 治夫
吹田市には外国人の方が5千数百人おられますが、大阪北部地震の際、私は職員を出勤させるのか自宅待機させるのか判断にすごく悩みました。外国人の方から助けを求める連絡がなかったことで迷ってしまい、半日間ほど宙ぶらり状態にしてしまった。つまり、発災時に責任者がいかに行動・判断できないかを自身の失敗を通じて体感しました。今日はそのことを報告するために参りました。そうならないような仕組みをつくっていくことが、我々のこれからの使命かと思います。
【地震では自助・共助が大切】
箕面市国際交流協会
常務理事 三上 照男
災害時の対応には、自助、共助、公助がありますが、地震で公助はまず望めません。箕面市の消防は普段の火災に対する準備はできていますが、救急車が3台出ると、あと消防車が4台しかありません。そういう状況ですので、やはり自助・共助が大切です。大阪北部地震では、豊川南小の避難所には百数十名の外国人留学生がいらっしゃって、最初は皆さん日本語が通じないと思っていました。しかし、実際に尋ねると約40名は日本語が話せることがわかりました。そんな経験を通じていろいろ課題をいただきましたので、当協会としての活動に生かすために検討を進めております。
【情報伝達の難しさを痛感】
とよなか国際交流協会
理事長 松本 康之
当協会は特に熊本地震の翌年である2017年以降、豊中市と災害時多言語支援センター設置の協定を締結たり、大阪大学との協定を結んで多言語情報提供の準備を進めたりして災害時の外国人支援体制作りに向けて積極的に取り組んできました。大規模災害時における外国人支援フォーラムや外国人のための総合防災訓練の実施もしました。
そんな活動の後に大阪北部地震が発生したのですが、地震後の外国人の方へのアンケートでは「今知りたいこと」との問いに対し「地震のときにどうすればいいか」という回答が36%にも達し、これには衝撃を受けました。が、また当協会のfacebookページで多言語情報を発信していたことを当時知っていた方が25%に止まり、情報伝達の難しさを感じました。
【位置データで研究者や地域の方をサポートしたい】
パシフィック・スペイシャル・ソリューションズ株式会社
CEOヒロキ・イマキ(阪大の特任教授に就任予定)
私は位置データを扱うビジネスに携わっており、地震の前後に人がどのように動くのか、避難所での人の分布がどうなっているのか、今そういうことを調べているところです。SDGsに関しては、まちづくりの過程で人の動きを知っておかなければ、実際何か起きたときに何をすべきかわかりません。今後は阪大の特任教授として、位置データでいかに研究者や地域の方をサポートできるのかを、いろいろ試していきたいと思っています。
【内容不明の緊急警報に不安を感じた留学生たち】
大阪大学工学研究科
助教 Dr. Sastia Putri
私はインドネシア出身で日本に14年間住んでいます。大阪北部地震では、阪大の留学生達は「安心できるところに行きたい」と思ったのに近所に知り合いがいない人が多く、発生10分以内に15人が小野原の私の家に来ました。6時間ほど過ごした後、皆で避難所である豊川南小学校に向かいましたが、地震前のいいタイミングで避難訓練があったので、場所はすぐわかりました。留学生たちにはSNSで避難情報を拡散してもらいましたが、インドネシア人グループだけでなく、他の国のグループにも拡がったので、多くの留学生が豊川南小学校に集まったのだと思います。留学生が特に不安がったのは一晩中鳴っていたスマホの非常警報。箕面市の土砂災害に関するものだと後からわかりましたが、非常警報の画面が日本語だったので、発報の深刻さがわからず、家に帰れなかった留学生も多くいました。私の在籍する福崎研究室では緊急連絡網(携帯電話)をつくっていたので、迅速にメンバーの安否確認ができました。
【全ての留学生を対象としたセーフティネット構築を】
大阪大学国際教育交流センター
教授 近藤 佐知彦
大阪北部地震発生時に、本学の留学生が地域の皆さまに助けていただいたことに関しまして、まず心より御礼申し上げます。今後、数十年または十数年のうちに大きな地震が来るらしいという情報もございます。留学期間にかかわらず、全ての留学生たちを、それに加えて日本人学生たちも一緒に救うことのできるセーフティネットを、地域の皆さまと構築していきたいと思います。その出発点として、今日のような機会をうまく活かしていきたいです。
【両極端なシナリオを用意しておけば安心】
大阪大学工学研究科附属オープンイノベーション教育研究センター
准教授 原 圭史郎
地震対策としては、防災・減災情報の内容や情報伝達方法など、いろいろ検討すべきことがありますが、検討過程で将来の視点に立って導いていくことが大事。フューチャー・デザインでは4、5名のグループで年齢や立場をバラバラにすると多様な意見が出てきますので、2050年の職員、留学生、住民の立場で考えればいいと思います。そして、将来のシナリオをつくることも重要。発災時に対応できるよう、両極端なシナリオを用意しておけば中間の場面にも対応できるので安心です。
【地震の前後で必要なことの整理が必要】
大阪大学工学研究科 ビジネスエンジニアリング専攻
教授 倉敷 哲生
本日は参加された皆さんのお話を間近でお聞きして、大阪北部地震の経験をしっかりいかしたカタチで情報の共有化の方策の検討と、将来に向けたアクションを考えていかなければならないと痛感いたしました。発災現場で避難者をサポートされた方と発災現場から情報を発信された方、多様な立場の方それぞれが地震の前後で何が必要だったか。そういったことをきちんと整理していくことができれば、さらに前に進めるのかなと思います。
【お付合い、教育研究、楽しい活動を通じた人材育成を】
大阪大学サスティナブルキャンパスオフィス
准教授 吉岡 聡司
皆さんのお話の中では、豊川南小学校の現場を体験された、小原様の「発災現場で活躍できるリーダー人材の育成を!」とのメッセージが非常に重要だと感じました。私はこのお話しは新キャンパスへの移転とも通じるところがあると思っています。「日頃の周辺の方とのお付合い」や「教育研究」、それに加えて「楽しい活動」などを通じて、いい人材が育まれていくのが理想ではないでしょうか。
【若い人が参画する新しいコミュニティを】
箕面船場まちづくり協議会
代表理事 小林 利彰
箕面船場地区の自治会は加入率が低いうえに高齢者ばかりですし、新キャンパス周辺は3つの小学校の校区間で横の連携が取れていませんので、縦割りでない新しいコミュニティを創っていかないと考えています。そのためには、若い人の参画が最大のポイント。ボランティアでは無理なので、事業化により若い人が働きながら参画できる仕組みをつくっていこうとしています。未来の先取りが必要という考えが当協議会の立ち位置ですので、箕面キャンパス夏祭り実行委員会にも協力してきました。防犯では共助が大事という話がありましたが、それには普段からのお付き合いが大事になってくる。新しいマンションでは自治会に入ってこない。隣は何をしているかわからない。そんな状況の中で、皆さんの意見も賜りながら新しいコミュニテイを創っていきたい。防災だけでなく、防犯、見守りも考えて、位置情報やフューチャー・デザインを駆使して協働していただければ、老若男女全てのためになるのではと期待しています。
交流セッション後は、後藤特任教授からの次年度以降の再会宣言に続き、産学共創本部 副本部長 松井俊弘教授からの閉会挨拶で『フォワイエ阪大』交流セミナーは終了しました。会場の時間の都合により、慌ただしい後半となりましたが、セミナー終了後の会場外のあちこちで参加者同士が議論する姿が見られました。